
今、アメリカのB2B業界ではコンテンツマーケティングの活用が急速に進んでいます。その基礎に欠かせないキーワード、「バイヤーペルソナ」と「バイヤーズジャーニー」。
国土の広いアメリカでは外勤営業よりもインサイドセールス+コンテンツマーケティングで、顧客獲得や関係性維持に取り組むB2B企業が増えており、特にSaasなどサービス系B2Bでその傾向が顕著です。
一方で同じコンテンツマーケティングでも、B2Cと比較してB2Bのコンテンツマーケティングはやや特殊で、この点を考慮せずB2Cマーケティングの延長で取り組むと期待する効果が出ない可能性も。このB2Bコンテンツマーケティングの戦略・施策立案で欠かせない、バイヤーペルソナやバイヤーズジャーニーの考え方をこのページで紹介します。
目次
B2Bコンテンツマーケティングで不可欠なバイヤーペルソナとバイヤーズジャーニー
アメリカのB2Bビジネスで進むコンテンツマーケティングの活用。B2Cビジネスでは当たり前の、オウンドメディア構築やSEO対策、顧客向けのメルマガ配信、ソーシャルメディアの運用など、コンテンツマーケティングに積極的に取り組むB2B企業がアメリカで増えています。
そこで、まず最初にアメリカのB2Bビジネスでコンテンツマーケティングの活用が進む理由や、特にB2Cコンテンツマーケティングとの考え方・手法の違いを、このページのテーマであるバイヤーペルソナやバイヤーズジャーニーをキーワードに解説します。
外勤営業からインサイドセールス+コンテンツマーケティングへ~変化するアメリカのB2B

アメリカでの外勤営業・インサイドセールスの比率の推移(https://blog.hubspot.com/sales/inside-vs-outside-sales)
まず日本と比較してアメリカのB2Bでコンテンツマーケティングの活用が進む理由の1つとして、外勤営業から内勤営業(インサイドセールス)へのシフトが挙げられます。もちろん、アメリカでもまだ外勤営業が主要な営業形態ですが、ここ10年間で急速にインサイドセールスの比率が高まっているのが特徴です。
日本と違い、国土が広く、西海岸と東海岸では3時間もの時差があるアメリカでは対面営業は非常に非効率。B2B企業が営業効率性を重視した結果、インサイドセールス化が進んだと考えられます。インサイドセールスの定義は、電話など顧客と非対面で契約・受注などの営業行為を行う人材または組織で、2019年現在、アメリカでは営業職のうち約半分がインサイドセールスとのデータもあります。

2019年現在の営業職全体におけるインサイドセールスの比率(https://ebq.com/inside-vs-outside-sales-the-rise-of-remote-selling)
比較すると日本は、地理的特性や商慣習からまだ対面営業が多いようですが、B2B企業が営業効率をより重視すれば、自然とアメリカと同様のインサードセールス化が進みそうです。
このB2B企業のインサイドセールスで、効果的な運用に欠かせないのがコンテンツマーケティング。インサイドセールスに加え、自社サイトなどのWEBコンテンツ経由でのリード獲得や、顧客の購買意思決定に必要な情報の提供で契約・受注獲得を促進したり、メルマガなどを使って既存顧客との関係性維持を実現しようとしています。
SEO対策やコンバージョンレートの最適化、SNS運用やメルマガ配信など、B2Cビジネスではすでに多くの企業が取り組んでいるコンテンツマーケティング施策ですが、B2Bビジネスのコンテンツマーケティングも同様の取り組みが効果的でしょうか?
B2BとB2Cのコンテンツマーケティングで最大の違いは何か?
オウンドメディア構築やソーシャルメディア投稿など、コンテンツマーケティング手法は同じでも、B2BとB2Cで大きな違う点が3点あります。
1つはユーザー(顧客)が専門家である点。例えば水や食品、衣類・ファッション製品などを扱うB2C向けサービスでは対象は基本的に一般消費者。コンテンツマーケティング施策の内容を考える上で比較的ユーザーをイメージしやすいのに対し、B2Bビジネスで対象とするはその分野の専門家。さらに製品・サービス、業界により、顧客特性が大きく違ったり、同じ製品・サービスでも顧客の決裁者向けのコンテンツか、エントリーレベルの担当者向けコンテンツかで、伝えるべき内容も変わります。
2つ目は、購買意思決定への関与人数の違い。多くのB2C向け製品・サービスでは購買意思決定はユーザー本人がしたり、家や自動車など高単価商材の場合もユーザーに加えて家族が意思決定に関与する程度と、意思決定への関与者は比較的少数です。一方、B2Bビジネスでは導入意思決定に関与する平均人数が6.8名(参考:https://hbr.org/2017/03/the-new-sales-imperative)。ユーザー本人の購買喚起はもちろん、コンテンツマーケティングを通じて顧客の組織・チーム全体の意思決定を促す必要がある点もB2BとB2Cの大きな違いの1つです。
最後に、購買にかかる期間もB2BとB2Cにおけるコンテンツマーケティング上の大きな違い。家や自動車などの高単価商材を除くと、購買検討期間が数分、あるいは数日など比較的短いB2Cと比較して、B2Bビジネスで例えば工場の機材導入など、数ヶ月から1年以上の検討期間が必要な場合もあります。このため顧客側の購買意思決定までのフローを理解したり、検討期間中のフォロー施策が重要なのが、B2Bコンテンツマーケティングの特徴です。
以上のように、B2Cのマーケティング施策とは異なる視点や考え方が必要なのがB2Bのコンテンツマーケティング。コンテンツマーケッターは、B2BとB2Cで根本的に異なる点を理解しつつ戦略・施策の検討が必要です。さらに、B2Bコンテンツマーケティングで欠かせない、バイヤーペルソナとバイヤーズジャーニーの2つの考え方。作成方法などを以下で紹介します。
バイヤーペルソナ(Buyer Persona)の役割と作成方法

Adele Revella氏の著書「Buyer Personas」
コンテンツマーケティングの基本でもあるペルソナ作成ですが、B2Cのコンテンツマーケティングでユーザー像の把握を目的に作成するペルソナと、B2Bビジネスで重要なバイヤーペルソナ(Buyer Persona)は作成の目的や役割、ペルソナで明らかにすべき観点が異なります。B2Cのの場合と同様のペルソナを作成してもあまり役に立たないのです。
以下、B2Bコンテンツマーケティングの根幹となるバイヤーペルソナの構成要素や具体的な作成方法を紹介します。
バイヤーペルソナとは?~基本的な考え方と作成目的
B2Bのバイヤーペルソナは、コンテンツマーケティングでターゲットとするバイヤー(顧客の購買担当者)の意思決定メカニズムを明らかにすることが基本的な役割であり考え方。B2Cマーケティングにおけるペルソナ作成では年齢や性別、居住地域、年収などの属性からユーザーをモデル化する方法が一般的ですが、この考え方でバイヤーペルソナを作成しても「バイヤーがどんな製品・サービスを、何を重視して、購買の意思決定をするか」は明確になりません。
バイヤーペルソナとは、B2Bコンテンツマーケティングで対象とするバイヤーが、社内でどんな権限・責任を持ち、何を目的に製品・サービスの導入を検討しているのか、その検討で何を重視し、どんな情報を知りたいのかなど、購買意思決定にかかわる価値・判断基準を明確化したりパターン化することです。コンテンツマーケティング施策を通じて影響を及ぼしたいバイヤーの意思決定行動の把握、これがバイヤーペルソナの作成目的です。
バイヤーペルソナの作成方法と構成要素
具体的に、バイヤーペルソナは下記のような要素で構成され、各要素を言語化することが基本的な作成方法です。自社の製品・サービスの顧客や、営業先となる担当者がどんなユーザー(バイヤー)なのかを、営業組織へのヒアリングや顧客へのインタビューから明らかにします。
1. ユーザー(バイヤー)の職務・ミッションや決裁権限
B2Bコンテンツマーケティングで対象とするユーザー(バイヤー)を、製品・サービス導入の担当者とするか、意思決定に近い決裁者とするかで、コンテンツマーケティングで提供すべき情報の内容が変わる場合もあります。このため、自社サイトの訪問ユーザーや最初に問い合わせをするユーザーには担当者が多いのか、決裁者が多いのかなど、まずはユーザーの職務やミッション、決裁権限をペルソナで規定します。
2. ユーザー(バイヤー)の購買目的や動機
なぜ、その製品・サービスの導入を検討しているのか、購買目的や動機もバイヤーペルソナの重要な構成要素です。また自社が扱うB2B向け製品・サービスを新規導入するのか、現在すでに他社類似製品・サービスを利用中でその変更を検討中なのかも重要な要素。前者の場合は導入検討のキッカケは何か、後者の場合は現在の不満・課題は何かなど、購買目的や動機をどうパターン化するかでB2Bコンテンツマーケティング施策の方向性は変わります。
3. 製品・サービスの導入で重視するポイント
また自社の製品・サービスの顧客は導入時に何を実現したいのか、競合製品・サービスと何を比較するのか、バイヤーが意思決定で特に重視するポイントを明確化することもバイヤーペルソナ作成の重要な構成要素。例えば、導入時の社員への説明のしやすさや、無料試用できるか、どれくらい社内業務が効率化されるかなど、様々な観点が想像できますが、これらによりB2Bコンテンツマーケティングで自社の製品・サービスについてメッセージすべき内容も変わります。
4. 製品・サービスの導入で不安視するポイント・意思決定の阻害要因
逆に製品・サービスの導入検討で、意思決定に時間がかかるとしたら何が原因か、ユーザー(バイヤー)が不安視するポイントなど意思決定の阻害要因をペルソナで言語化することもB2Bコンテンツマーケティングで重要です。また自社ではなく競合他社の製品・サービス導入を意思決定するとしたら何が理由か、バイヤー側から見て競合劣位となるポイントを明らかにすることも重要でしょう。
5. ユーザー(バイヤー)が信頼する情報ソース
最後に、ユーザー(バイヤー)が製品・サービス導入の情報収集で信頼する情報ソース(業界の専門サイトやニュース記事、同業他社の導入事例や口コミなど)が何かをバイヤーペルソナの作成から把握することも重要。それによりB2B向けコンテンツをどこで流通させるか、マーケティングチャネルが変わる可能性があります。
このようにバイヤーの意思決定に関与する要素をバイヤーペルソナにまとめることがB2Bコンテンツマーケティングの戦略・施策立案で重要ですが、同時に作成したいのが購買の意思決定フローを時間軸でまとめたるバイヤーズジャーニー(Buyer's Journey)です。
バイヤーズジャーニー(Buyer's Journey)とは?
バイヤーペルソナでパターン化・モデル化した顧客が、どのような時間軸やフローで製品・サービスの認知から情報収集、最終的な社内決裁・導入の意思決定を行うかをまとめたものがバイヤーズジャーニー(Buyer's Journey)。
業界や製品・サービス、また顧客ごとに検討内容や決裁フロー、導入までに必要な時間が違い、そこには異なる物語(Story)が存在します。つまり、バイヤーズジャーニーとは意思決定までに顧客が体験する物語とも言えます。複数の顧客インタビューから顧客ごとの物語を紡ぎ出し、それをいくつかにパターン化するというのがバイヤーズジャーニーの作成方法です。
バイヤーズジャーニーの4つのフェーズ
一般にバイヤーズジャーニーは以下のような4つのフェーズに分けられ、各フェーズごとに顧客が何を考え、どんな体験をするのかの把握が重要です。その上で、各フェーズでの顧客の検討内容に即した、コンテンツマーケティング施策が求められます。
- Awareness:いつ、どこで製品・サービスの必要性を認識したか?
- Research:他のどんな製品・サービスと、どのように比較検討したか?
- Evaluation:最終的に絞り込んだ製品・サービス候補をどんな観点で評価したか?
- Purchase:購買意思決定のため、社内の誰からどのように承認を得たか?
バイヤーズジャーニー作成のために効果的な顧客へのインタビュー質問例
バイヤーズジャーニーの作成には、各フェーズにおける顧客の具体的な行動内容を知ることが必要ですが、残念ながら営業組織ではそこまで把握できていないケースも多く、マーケティング組織が直接顧客にインタビューして把握することが、早くて確実なバイヤーズジャーニー作成におすすめの方法とされています。
顧客インタビューは、最初に製品・サービスの必要性を認識した時点まで遡り、顧客から検討過程の物語を1つ1つ丁寧に聞き出す作業です。具体的には下記のような質問を顧客に投げかけ、バイヤーズジャーニーを明らかにします。
●何がきっかけで、一番最初に製品・サービスXが必要だと感じたのか?
●それ以前から製品・サービスXを検討・導入していても良さそうなものだが、具体的にどんな変化が社内であったのか?
Research(情報収集)フェーズ
●製品・サービスXについての情報収集として、一番最初にしたことはなにか?
●そこからの得た情報の中で最も重要なものは何だったか?
●他にどんな情報を収集したか?
Evaluation(評価)フェーズ
●製品・サービスの評価候補から除外したものがあれば、何が理由で除外したのか?
●なぜ、その除外理由を重視するポイントにしたのか?その点は、どの程度最終的な意思決定で重視されたのか?
Purchase(意思決定)フェーズ
●社内で承認されるまでのステップ、フローは?
●社内ではどの程度合意できたのか?最終的な意思決定者は誰だったのか?
例えばバイヤーズジャーニーの情報収集フェーズで顧客が「まずはGoogleで調べた」のであれば、コンテンツマーケティングで注力すべきはSEO対策となり、また「同業他社から話を聞いた」のであれば紹介キャンペーンなどのマーケティング施策が有効かもしれません。このように自社のコンテンツマーケティング施策をバイヤーズジャーニーに合わせて立案・実行することがB2Bビジネスでは重要です。
以上、バイヤーペルソナやバイヤーズジャーニーの明確化により、B2Bコンテンツマーケティングのコンテンツ内容やメッセージを効果的にできたり、あるいはバイヤーの情報収集場所・手段により、マーケティング施策を実施するメディアや手法が変わることを説明しました。
アメリカでは、このようなB2Bコンテンツマーケティング施策の成功ポイントや事例が増えつつあり、日本のB2Bビジネスでも今後コンテンツマーケティングの活用が進むような場合は、アメリカでのノウハウ・事例が大いに参考になりそうです。