生成AI利用時に必要なリスクマネジメント

生成AIの導入が進む一方で、活用にはさまざまなリスクが伴います。

コンテンツの品質低下、著作権侵害、ハルシネーションによる誤情報の生成や情報漏洩などの問題が現実に発生しており、企業や個人にとって対策が欠かせない状況です。特に、業務で生成AIを利用する場合には、法律・倫理・社内ルールへの配慮が必要不可欠です。

このページでは、生成AIを活用する際に含まれるリスクの全体像を明らかにしながら、利用者や提供者、さらには社会全体に及ぼす影響について、実際に起きた事例を交えて解説します。あわせて、生成AIのリスク対策として取り入れるべきチェック体制の構築やセキュリティ対策、ガイドラインの策定など、実用的な対処法も紹介します。

記事の執筆者
株式会社EXIDEA 執行役員CTO
梶野 尊弘
新卒採用プラットフォームの開発運用に従事し、Webアプリ、スマホアプリの開発/運用、性能改善/PM/データ分析基盤/クラウドインフラなど、多岐に渡って経験。現在はCTOの他、「EmmaTools」のプロダクトから販売までの事業責任を担っています。データ分析基盤や自然言語処理を専門としています。EXIDEAでは「プロダクトで”楽”を創る」をミッションに、プロダクトを通したマーケティング業務の効率化やコンテンツマーケティングの支援を行なっています。
EmmaBlog監修者

生成AIを活用する際のリスク

こちらでは、生成AIを導入する際に把握しておくべきリスクについて解説します。

コンテンツの品質に関するリスク

1つ目は、コンテンツの品質に関するリスクです。

生成AIは大量のデータをもとに新たな文章や画像を生成しますが、その出力が常に正確とは限りません。事実誤認や論理の破綻、不自然な表現が含まれることがあり、特に専門性の高い分野では信頼性に欠けるケースも少なくありません。

また、学習データに偏りがある場合には、出力結果にも偏見が表れる可能性があります。たとえば、医療や法律、教育といった分野では、誤った情報が利用者に重大な影響を与えることもあります。

こうした背景から、生成AIが出力したコンテンツは、そのまま公開・活用せず、必ず人間の目による確認と修正を行うことが重要です。品質担保のためのプロセスを設けることが、生成AI活用の前提条件となります。

法律・倫理・コンプライアンス上のリスク

2つ目は、法律・倫理・コンプライアンス上のリスクです。

特に著作権に関する問題は深刻で、AIが過去の作品を学習し、それに類似したコンテンツを生成した場合、著作権侵害に問われる可能性があります。また、生成されたコンテンツに差別的表現や虚偽情報が含まれていた場合、企業の社会的信用を損なうリスクも否定できません。

さらに、個人情報保護法やGDPRのようなプライバシー保護に関する法規制も無視できず、生成AIに個人データを誤って入力すると法的責任を問われるおそれがあります。このようなリスクを回避するには、コンテンツの事前確認や使用ルールの明確化、倫理的配慮を徹底した運用体制の整備が必要です。

社内運用・人材育成に関するリスク

3つ目は、社内運用・人材育成に関するリスクです。

まず、生成AIの特性や制限を正しく理解せずに業務へ組み込むと、誤情報の出力や過信による判断ミスが発生する恐れがあります。また、利用ルールやセキュリティポリシーが整備されていない状態で導入が先行すると、部門間で運用ルールがバラバラになり、情報管理の統一性が失われます。

さらに、AIツールの操作スキルだけでなく、出力された情報の真偽を見極めるリテラシーも必要ですが、これらの教育体制が社内で不十分な場合、生成AIの利便性が逆に業務リスクを高める結果になりかねません。導入と教育を同時に進めることが、安全な運用の鍵となります。

生成AIがリスクを与える3つの対象

こちらでは、生成AIによるリスクを受ける対象について解説します。

利用者として抱えるリスク

1つ目は、利用者として抱えるリスクです。

生成AIを業務に活用する際、まず深刻なのが情報漏えいのリスクです。機密情報や個人データをAIに入力することで、外部サーバーを通じて情報が第三者に漏洩する可能性があります。

たとえ意図的でなくても、社内データが外部の学習に使われる危険性は無視できません。また、生成AIが出力する情報は、もっともらしい表現であっても事実と異なる内容を含むことがあり、これはハルシネーションと呼ばれます。この誤情報を鵜呑みにすると、重大な判断ミスや信頼失墜につながります。

さらに、AIが生成した文章や画像が、既存の著作物と酷似していた場合、利用者が知らないうちに他者の著作権や商標権を侵害してしまうこともあります。AIの出力をそのまま使用するのではなく、必ず人間による確認と責任ある判断が求められます

生成AIの著作権に関しては『生成AIが生成する画像や文章に対する著作権は?著作権侵害にあたるケースとあたらないケース』で詳しく解説しているのでご一読ください。

サービス提供者が抱えるリスク

2つ目は、サービス提供者が抱えるリスクです。

生成AIのサービスを提供する側にとって、法令違反や契約違反に起因するリスクは極めて重大です。特に、著作権やプライバシーに関する規約に反したデータを無断で学習に使用した場合、訴訟リスクに直結し、多額の賠償やサービス停止を余儀なくされる可能性があります。実際に、学習データを巡って大手メディアやクリエイター団体がAI開発企業を提訴する事例も増えています。

さらに、生成された出力が誤情報や差別的表現、権利侵害を含む場合、ユーザーや社会からの信頼を失い、サービス全体のブランド価値が深刻に損なわれる恐れがあります。加えて、ユーザーが意図的に悪質な命令を与えることでAIの振る舞いを誘導するプロンプトインジェクションは、情報漏洩や社会的混乱を引き起こすサイバー攻撃手法として現実の脅威となりつつあります。

さらに、不適切なデータがAI学習環境や提供プラットフォームに持ち込まれることで、システム全体のセキュリティやプライバシーが侵害されるリスクも顕在化しています。このように、生成AI提供者はあらゆる角度からリスクを想定し、徹底したガバナンス体制の構築が求められます。

社会への影響におけるリスク

3つ目は、社会への影響におけるリスクです。

生成AIの普及は利便性を高める一方で、社会全体に深刻かつ多面的なリスクをもたらしています。中でも重大なのが、犯罪者や悪意ある利用者による悪用の加速です。

生成AIを使えば、巧妙な詐欺メールや標的型攻撃用の文章を瞬時に作成でき、フィッシングやなりすまし詐欺の精度と効率を格段に高めてしまいます。つまり、AIの力によって、犯罪者の生産性が大幅に向上するという危険が現実化しているのです。

他にも、AIが学習した不適切なデータに基づき、偏見や差別を含んだ情報が無自覚に拡散されるケースも後を絶ちません。誤情報の拡散や倫理的に問題のある表現が広まることで、社会の信頼や公平性が大きく揺らぐ可能性がある点にも注意が必要です。

生成AIを活用するためのリスク対策

こちらでは、生成AIを活用するためのリスク対策を3つ紹介します。

人間が必ずチェックする

1つ目は、人間が必ずチェックすることです。

生成AIは非常に高精度な文章や画像を瞬時に生成できますが、その出力内容が必ずしも正確で適切であるとは限りません。

AIは学習データに基づいて文章を生成するため、事実と異なる情報や文脈の誤解を含む可能性が常にあります。そのため、生成された情報は必ず人間がチェックし、信頼できる情報源と照らし合わせて検証する必要があります。

また、文法や構成が正しくても、その文章が本当に目的に合っているか、ターゲットにとって伝わりやすいかという視点も重要です。特に企業が生成AIを使う場合は、語調やトーンがブランドイメージに合っているか、使用する媒体やシーンにふさわしいかを慎重に判断しなければなりません。

人の目による確認を必ず入れることで、生成AIの精度を高め、リスクを最小限に抑えることができます。

権利侵害や倫理的問題を防ぐガイドラインを策定する

2つ目は、権利侵害や倫理的問題を防ぐガイドラインを策定することです。

たとえ使用している生成AIサービスが商用利用可能であっても、その出力結果が他者の著作権や肖像権などを侵害するリスクは常に存在します。そのため、AIに入力する情報は慎重に選定し、他人の著作物や個人情報などを含めないことが基本です。

また、学習元が偏ったAIを使うと、不適切な表現や差別的な出力につながる可能性があるため、できるだけ偏りのない汎用的なデータで学習されたモデルを選ぶことが望まれます。さらに、自分自身の著作権を主張するには、生成されたコンテンツに人の手を加えるか、自身の作品で学習させたカスタムAIの利用が求められます。

こうした問題への対応として、デジタル庁は「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」を公開しました。このガイドブックでは、行政サービスでの生成AI活用時に生じる可能性のあるリスクを整理し、それぞれに対する技術的な対策を示しています。

引用元:デジタル庁「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)

情報漏洩リスクとセキュリティ対策をする

3つ目は、情報漏洩リスクとセキュリティ対策をすることです。

多くの生成AIは、ユーザーが入力した情報を学習データやログとして保存する仕組みを持っており、無意識のうちに機密情報が外部に渡る可能性があります。そのため、利用するサービスは、入力データを学習に使用しないと明示されたものを選ぶことが基本です。

また、個人情報や機密情報が含まれる内容は、原則として学習対象から除外する運用が求められます。さらに、ユーザーが入力するプロンプトと、それに対するAIの出力結果の両方を人間がチェックできる仕組みを整えることで、不適切な情報の公開を防ぐことが可能です。

情報管理の体制を整えることが、生成AIを安心・安全に活用するための前提条件となります。

生成AIを活用して問題となった事例3選

こちらでは、生成AIを活用して実際に問題となった事例を紹介しています。

サムスンは社内の機密ソースコードをChatGPTに入力したことで情報漏洩

サムスンでは、エンジニアが社内の機密ソースコードをChatGPTに入力したことで、外部サーバーに情報が保存され、意図しない情報流出が発生しました。これを受けて、同社は生成AIの業務利用に関するリスクを重く見て、新たな利用制限方針を打ち出しました。

この方針では、社内ネットワークを含む業務用端末における生成AIツールの利用を原則禁止とし、加えて私物端末での利用においても、業務関連の情報や個人情報を入力しないよう厳重に注意喚起が行われています。

これらの対応は、企業における機密情報保護の観点から不可欠な措置といえます。この事例は、生成AIを扱う際に、どのような情報を入力すべきかをあらかじめ明確に定めることの重要性を改めて浮き彫りにしました。

引用元:https://forbesjapan.com/articles/detail/62905

韓国放送協会は放送コンテンツを無断使用をしないよう警告

2023年12月、韓国放送協会は、地上波放送39社を代表して、ネイバーやカカオ、Google Koreaなどに対し、ニュースや映像・音声といった放送コンテンツをAIの学習に利用する際には事前に補償を協議し、無断使用をしないよう正式に警告を出しました。

放送局側は、ニュースコンテンツが多大な労力とコストによって制作された知的財産であり、生成AIの品質を支える重要な学習資源であると強調しています。しかし、ネイバーは学習データの詳細について「企業の技術ノウハウにあたる」として開示を拒否しました。

この訴訟は、単なる権利保護にとどまらず、ジャーナリズムの独立性と信頼性、そして生成AIにおける法的・倫理的基準の確立を目指すものとして注目されています。

引用元:https://news.yahoo.co.jp/articles/80f7a64f96d84fbc51d1c4bac7f7ff363c3799c7

岸田首相が語りかけるディープフェイク動画が投稿

生成AIの急速な普及とともに、ハルシネーションによる誤情報の生成リスクが社会問題化しています。

近年では、岸田首相が背広姿で語りかけるディープフェイク動画が投稿され、日本テレビのニュース番組を模倣した「BREAKING NEWS」「LIVE」といったテロップが画面に挿入されていました。この動画は本物そっくりの構成で、短期間で230万回以上再生され、SNS上で大きく拡散されました。内容は完全な捏造であり、誤った印象を与えるだけでなく、名誉毀損や社会混乱の引き金にもなり得ます。

生成AIを活用するには、このような虚偽コンテンツのリスクを理解し、事実確認を怠らない仕組み作りが必要です。また、プラットフォーム側の対応やユーザーの情報リテラシーの向上も不可欠であり、AIによる出力をそのまま信じず、常に批判的に読み解く姿勢が求められます。

引用元:https://www.yomiuri.co.jp/national/20231103-OYT1T50260/

まとめ

生成AIの導入が広がる中で、その利便性の一方で存在するリスクについても正しく理解しておくことが重要です。

品質や著作権、情報漏洩、さらには社会全体への悪影響に至るまで、リスクの種類は多岐にわたります。実際の事例を見ても、誤情報の拡散や偽動画による混乱など、現実に起きている問題であることが分かります。こうした背景を踏まえれば、導入時の対策はもはや任意ではなく、必要不可欠なものです。

まずは、自社や自身の活用環境に即したルールやチェック体制を整えることから始めましょう。