BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)とは、Googleが開発した自然言語処理モデルで、検索エンジンの精度向上に貢献しています。
従来の自然言語処理モデルは単語やフレーズを個別に解析するのに対し、BERTは文脈全体を考慮し、単語と文脈の双方向からの情報を取り入れることができるため、より自然かつ人間に近い理解を実現しました。
BERTによりGoogleの検索エンジンは、検索クエリの意味を深く理解し、ユーザーにより関連性の高い検索結果を提供することを可能とし、検索精度だけでなく、ユーザーエクスペリエンスを向上させました。
このページでは、BERTの基本的な概要から、その仕組み、特徴、そしてSEOへの影響までを詳しく解説します。また、生成AIの1つとして有名なOpenAI社が開発するChatGPTとの違いについても解説します。
この記事でわかること
BERTとは
BERTとは、「Bidirectional Encoder Representations from Transformers」の頭文字をとった略称で、文の意味や文脈を理解することができる自然言語処理モデルの1つです。また、BERTは文脈理解の精度を大幅に向上させることを目的にGoogleが開発したものになります。
従来の自然言語処理モデルは、文の順序に従って情報を処理していたのに対し、BERTは文全体を一度に処理することで、前後の文脈を同時に考慮することが可能です。
上の図のような、双方向性がBERTの最大の特徴であり、自然言語の微妙なニュアンスや複雑な関係性を理解する能力を高めています。
また、BERTは文中の各単語がほかの単語とどのように関係しているかを一度に把握する「Transformer」という新しい仕組みを使っているため、処理が速く、精度の高い結果を出せるのが特徴です。
他にも、Wikipediaや書籍などの大量のテキストデータを使って、語全体の一般的なルールやパターンを学ぶ「事前学習(Pre-Training)」と、特定の用途に合わせてデータセットする「微調整(Fine-Tuning)」を行うことで、多様な自然言語処理タスクを実行できるようになりました。
GoogleはBERTの導入により、検索エンジンや音声アシスタントなど、日常生活における多くの技術が自然な言語理解を実現し、ユーザビリティを向上させています。
そもそも自然言語処理(NLP)とは
自然言語処理(Natural Language Processing、NLP)とは、人間の言葉(自然言語)をコンピュータが理解し、使いこなせるようにする技術のことを指します。
具体的には、会話やコミュニケーションで使う「話し言葉」や、書籍や記事で使う「書き言葉」など、人間が日常的に使用する言葉が持つ意味を解析し理解することです。また、それらの言葉には意味が定まらない「曖昧性」もあるので、その曖昧性を理解することも含まれます。
自然言語処理は、テキストや音声データの解析を通じて、コンピュータが人間と同様に言語を理解し、生成する能力を向上させることを目的とし、Googleの検索エンジンやSiri、Alexaといった音声アシスタント、チャットボットの自動応答など、私たちの日常生活のさまざまな場面で応用されています。
Transformerってなに?
Transformerとは、2017年にGoogleが発表した論文「Attention is all you need」で提案された、自然言語処理や機械学習のためのモデル(技術)です。
従来の自然言語処理では、「RNN(リカレントニューラルネットワーク)」や「LSTM(Long Short-Term Memory)」といった技術が使われていましたが、これらは一つひとつの単語を順番に処理するため、処理速度が低下しやすく、長い文章の依存関係を捉えるのが難しいという課題がありました。
一方、Transformerでは文章内の単語を並列処理できるようになったことで、より高速に大規模なデータを学習することや、複雑な文脈を正確に理解することが可能になりました。また、Transformerでは「自己注意機構(Self-Attention Mechanism)」を用いることで、文中の単語同士の前後関係や依存関係を同時に捉えることができるようになり、文全体を一度に処理し、高精度な文脈理解ができるようになりました。
現在、Transformerは、自然言語処理に限らず、画像認識や音声処理など他の分野にも応用されるほど、AIの発展において重要な技術となっています。
BERTの仕組み
ここからは、BERTの仕組みについてより詳細に解説していきます。
Transformerのエンコーダ構造
まず、BERTはTransformerの「エンコーダ部分」だけを使用して設計されています。
そもそもエンコーダとは、入力データを特徴的な情報に変換する仕組みのことです。Transformerのエンコーダでは、文章全体を処理し、各単語の文脈や意味を理解するように変換します。また、このエンコーダでは、文章内の一つの単語が他のどの単語に関連しているかを見つけ出し、そのつながりを考慮しながら処理する「自己注意機構(Self-Attention Mechanism)」を使っています。
例えば、文章の中の「彼」という代名詞が何を指しているのかを判断する際、その前後の単語や文全体の情報を参照することで、BERTは文脈に沿った解釈が可能になります。
さらに、BERTのエンコーダでは、単語の重要度や関連性を評価する「注意(Attention)」の仕組みも使われています。これにより、重要な単語やフレーズにより多くの注意を向け、適切な意味の理解をサポートします。このような構造のおかげで、BERTは単なる単語の羅列ではなく、文全体の意味を深く理解できます。
Bidirectional Encoding(双方向の文脈理解)
次に、BERTは文章を理解する際に、ある単語の前後にあるすべての単語を同時に考慮する仕組み「Bidirectional Encoding(双方向の文脈理解)」があります。
従来のAIモデルでは、単語を左から右、もしくは右から左の一方向でしか処理できず、途中の文脈が抜け落ちる可能性がありましたが、BERTはこの制約を克服し、文の全体を一度に処理することが可能です。
具体的には、BERTは「双方向」と「同時」を組み合わせて、単語の意味を前後の文脈に基づいて捉えます。たとえば、「本を読む時間が好き」という文の中で、「読む」という単語の意味は、「本」や「時間」との関係から理解されます。
BERTはこのように、単語とそれに続く、あるいは先行する単語の両方から意味を推測するため、文全体の正確な意味を把握することが可能です。
また、この双方向の文脈理解により、BERTは単語やフレーズの多義性にも対応できます。たとえば、「Apple」という単語が「果物」か「企業名」かを判断するには、前後の単語が重要です。BERTはその単語が使われる状況に応じて意味を適切に判断し、より自然で精度の高い検索結果や質問応答を実現します。
Pre-Training(事前学習)
続いて、Pre-Training(事前学習)です。
事前学習とは、膨大なテキストデータから言語のルールや文脈を学ぶための重要なプロセスを指します。BERTは、この段階で「Masked Language Model」と「Next Sentence Prediction」という2つの手法を使い、自然言語を理解する力を身につけます。
Masked Language Model
Masked Language Modelとは、文章の中から一部の単語を隠し、それが何かを予測するトレーニングになります。
具体的には、与えられた文章の中から一部の単語が「[MASK]」という特殊なトークンに置き換えられ、前後の単語から隠された単語を推測します。
たとえば、「今日は雨が降りそうだ」という文の「雨」を「[MASK]」に置き換え、「今日は[MASK]が降りそうだ」という形にします。BERTは、この[MASK]の部分にどの単語が入るかを、前後の「今日は」と「降りそうだ」という文脈を参考に予測します。これを繰り返し行うことで、BERTは文中の単語の使われ方や、単語が他の単語とどのように関わっているかを学習していきます。
この仕組みは、従来の一方向のモデルとは異なり、前後両方の文脈を同時に考慮できるため、文全体の意味をより正確に理解することができ、検索エンジンや質問応答システムなどで高い性能を発揮します。また、これにより、BERTは双方向の文脈を理解する能力を向上させます。
このように、Masked Language Modelは、文中の一部の単語を隠し、その隠された単語を前後の文脈から予測することで、コンピュータが単語同士の関係を理解できるようにすることが目的です。
Next Sentence Prediction
Next Sentence Predictionとは、文章間のつながりを理解するためのトレーニングです。
BERTは、Next Sentence Predictionを通じて、2つの文章が文脈的に続いているかどうかを判断する力を身につけます。
例えば、「今日は雨が降りそうだ」という文に続く文章が、「だから、傘を持っていこう」であれば、2つの文は自然につながっているといえるため、BERTはこれを「連続している文(IsNext)」と判断します。
一方、「今日は雨が降りそうだ」に続く文が「美味しいカレーには欠かせない」だと、2つの文は意味的に関連していないため、「連続していない文(NotNext)」と判断します。
BERTは、このように膨大なデータから2つの文の関係を学ぶことで、文脈に基づく判断力を向上させます。また、これにより、検索クエリの内容がどのような意図を持っているのかを深く理解し、正確な検索結果を提供できるようになります。
Fine-Tuning(微調整)
そして、最後にFine-Tuning(微調整)を行います。
Fine-Tuningとは、BERTが事前学習で得た一般的な言語理解能力を、特定のタスクに適用するために最適化するプロセスです。
BERTは、膨大なデータセットから基礎的な言語パターンを学んでいますが、そのままでは感情分析や質問応答、検索エンジンでの最適化などには十分ではありません。そこで、微調整を行い、特定の目的に合わせた性能を引き出します。
この過程では、まずBERTモデルに特定のタスクに関連するデータセットを与えて追加の学習を行います。例えば、感情分析のための微調整では、レビューの文章とそれに対応する「ポジティブ」や「ネガティブ」といったラベル付きデータを使います。
このデータを用いて、BERTは文章がどのような感情を表現しているのかを判断する力を磨きます。同様に、質問応答タスクでは、質問と答えがペアになったデータセットを使い、質問に対する正しい回答部分を見つける能力を向上させます。
このFine-Tuningにより、BERTは検索エンジンやチャットボットなど、特定のタスクに特化し多様な場面で実用的な成果を発揮できるようになります。
BERTの特徴
ここまで、自然言語処理やTransformerなど、BERTモデルの仕組みについて解説しましたので、次はBERTの特徴を4つご紹介します。
文脈や文章を理解できる
1つ目のBERTの特徴は、文脈や文章を理解できることです。
従来のAIモデルは、単語を一方向に順番に処理していたため、特定の単語の意味を前後の文脈に基づいて正確に把握することが難しい場合がありましたが、BERTでは「双方向の文脈理解」という仕組みを使い、ある単語の意味を前後にあるすべての単語の関係から捉えます。
例えば、「川で泳ぐ犬を見た」という文では、「川」が出てくるために「泳ぐ」という動詞は「犬が水の中を泳いでいる」という意味として理解されます。しかし、同じ「犬を見た」という表現が「公園で犬を見た」という文に続く場合、「泳ぐ」という言葉は文脈に合わなくなり、別の行動が想定されます。
BERTはこのように前後の文脈を同時に捉え、単語の意味や文章の意図を正確に判断します。これにより、同じ単語であっても文脈に応じた異なる意味を理解することができます。
Pre-TrainingとFine-Tuningで目的別に利用できる
2つ目のBERTの特徴は、「Pre-Training」と「Fine-Tuning」という2つの学習段階で、さまざまな目的に応じて柔軟に利用できることです
BERTの事前学習では、Wikipediaや書籍などなどの大規模なテキストデータから文の構造や文脈を理解する力を身につけますが、この段階では特定のタスクに特化していません。そのため、次のFine-TuningでBERTを特定の目的に合わせて調整することが可能です。
具体的には、チャットボットを作る場合、Fine-Tuningの段階でBERTに「燃えるゴミの日は何曜日ですか」という質問と「火曜日」という正しい回答をセットで与えて学習させることで、質問に対する適切な答えを見つける能力を高めることができます。
このように、一度のPre-Trainingで得た基礎的な言語理解をもとに、質問応答だけでなく、感情分析や文書分類など、さまざまなタスクに合わせてとFine-Tuningができるため、BERTは幅広い分野で活用することが可能です。
少量のデータでも問題なく調整できる
3つ目のBERTの特徴は、少量のデータでも問題なく調整できることです。
従来のAIモデルは、1つのタスクごとに大量のデータを用意し、その都度ゼロから学習を行う必要がありました。たとえば、感情分析や質問応答のようなタスクに対応する場合、それぞれに膨大な事前学習データが必要で、学習に時間がかかることが課題でした。
一方、BERTは、あらかじめ膨大なテキストを使ってPre-Trainingを行っているため、Fine-Tuningの段階では、特定のタスクに合わせた少量のデータで効果的に調整することが可能です。
たとえば、BERTで感情を分析させる場合であれば、わずか数百件のレビューやラベル付きのデータを使うだけで、BERTは高い精度でポジティブかネガティブかを判断できるようになります。
このように、従来のモデルでは大量のデータと長時間の学習が必要でしたが、BERTは少ないデータでも高い性能を引き出せるため、小規模なプロジェクトや限られたデータ環境でも有効です。
タスクのスコア管理と最適化
4つ目のBERTの特徴は、タスクのスコア管理と最適化ができることです。
BERTは、感情分析や質問応答など特定のタスクに対して、性能を数値化するスコアを使って、進捗を確認し最適化することができます。具体的には、学習の過程で、正答率や精度などをスコア化し、その評価に基づいて結果を最適化することが可能です。
この仕組みによって、BERTは同じタスクに対して、異なるデータセットを使って評価や改善が可能になります。
たとえば、「レビューの感情を分析する」というタスクの場合、映画のレビューと商品レビューの2種類のデータセットを用意するとします。BERTは両方のデータセットで学習し、それぞれの結果(正確さのスコア)を比較することで、どのタイプのレビューに対してより高い精度を発揮するかを見極めることができるというものです。
このように、パフォーマンスを数値化して追跡することで、モデルの最適な性能を引き出すための調整が可能になります。加えて、タスクのスコアを管理することで、BERTは特定の目標に対して効率的に学習を進め、モデルの過学習や未学習を防ぐこともできます。
BERTとChatGPTの違い
BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)とGPT(Generative Pre-trained Transformer)は、どちらも自然言語処理(NLP)で活用されるAIモデルになります。
しかし、BERTとGPTでは、目的と仕組みに違いがあります。
BERTは、文章全体の前後の文脈を同時に理解する「双方向」を重視しているため、文脈の前後を同時に考慮することで文章の意味を深く理解することを目指しています。例えば、「Apple」という単語が登場する場合、その前後の文脈から「果物」か「企業名」のどちらを意味するのかを判断します。そのため、BERTは文脈を正確に捉える必要がある検索エンジンや質問応答などの文章の意味を理解するタスクに強みがあります。
これに対し、GPTは文脈を左から右へと順番に処理し、文章の生成を目的としています。例えば、「今日の天気は」といった文を入力すると、GPTはその続きとして「晴れです」といった自然な返答を生成することが可能です。そのため、GPTは会話や物語などの自然な文章の生成を得意とします。
また、BERTとGPTでは、学習方法も異なります。
BERTは、文章中の一部の単語を隠し、その隠された単語を予測することで学習を行います。これにより、前後の文脈を理解する力が鍛えられます。一方、GPTは大量の文章を使い、次に来る単語を予測する形で学習するため、連続的で自然な文章を生成することが可能になります。
このように、BERTは意味の理解に優れ、GPTは文章の生成が得意です。それぞれの強みを活かし、BERTは検索エンジンや感情分析、GPTはチャットボットや物語の生成など、さまざまな場面で活用されています。
GoogleにBERTが導入された理由
Googleは、ユーザーが検索で求める情報をより正確に理解し、適切な検索結果を提供するためにBERTを導入しました。
BERTが導入される以前の検索アルゴリズムでは、単語ごとの意味を個別に理解することはできても、文全体の前後の文脈を考慮することが難しく、ユーザーの検索意図を十分に捉えられないことがありました。特に、話し言葉のような質問形式の検索や口語的な表現では、意図にそぐわない結果が表示されることがありました。
これに対し、BERTは単語の前後関係を双方向から理解できるため、検索クエリの微妙なニュアンスや意味の違いも正確に捉えられるようになりました。その結果、Googleはユーザーの検索意図をより深く理解し、より的確な検索結果を提供できるようになりました。
また、BERTが導入された背景には、スマートフォンの普及により、ユーザーが従来よりも自然な文章や会話調で検索するようになったことや、音声検索の利用が増加したことも関係しています。
このように、Googleはこれらの複雑な検索クエリに対する理解に応えるためにBERTを検索エンジンのアルゴリズムに導入したといえます。
BERTが導入されたことによるSEO対策の変化
Googleが検索アルゴリズムにBERTを導入したことで、特定の単語やフレーズをページ内に多く含める「キーワードの最適化」に頼る従来のSEO対策は廃れ、自然な文章でユーザーのニーズを満たすことが重要になりました。また、Googleは検索クエリ全体の文脈を理解できるようになったため、文章全体の意味や意図も重視されるようになっています。
この変化により、Webサイトを運営する企業や個人は、単にキーワードを羅列するのではなく、ユーザーの検索意図を考慮したコンテンツを作成することが求められるようになりました。
さらに、検索頻度は少ないものの、具体的なニーズを反映する「ロングテールキーワード」の対策も重要になっています。例えば、「カメラ」という一般的なキーワードではなく、「初心者におすすめのデジタルカメラ」のように、詳細で特定の検索意図に対応したキーワードが求められます。
BERTの導入により、ユーザーが価値のある情報を見つけやすくなっただけでなく、SEO対策の方法にも大きな変化をもたらしました。BERTは文脈を理解する能力に優れているため、SEOではユーザーの検索意図を考慮し、それに対する具体的な答えを提供するコンテンツを作成することが重要です。
まとめ
BERTは、インターネットで検索するユーザーの変化に合わせ、Googleが開発した自然言語処理モデルの1つで、文の意味や文脈を理解することが可能となりました。
また、BERTの登場により、話し言葉のような検索や長文での検索でも、ユーザーの検索意図を正しく把握できるようになったため、質の高いコンテンツの作成がSEO担当者に求められるようになりました。
そのため、現在では従来のキーワードを詰め込むSEO対策ではなく、ユーザーの疑問に対する具体的で明確な回答を提供することが、SEOの新たな鍵となっています。検索エンジンの進化に合わせて、ユーザーのニーズを的確に捉えたコンテンツの作成を進めていきましょう。