WEBコンテンツの制作やコンテンツマーケティングで昨今注目されているのが、映画や小説などでも活用されるストーリーテリングの手法。コンテンツの読み手であるユーザー・オーディエンスを、コンテンツに惹き込み、ページ滞在時間や商品・ブランドへのエンゲージメントを高める手法として、ストーリーテリング手法の活用事例が増えてきています。
このページでは、今後のWEBコンテンツ作成やコンテンツマーケティングで欠かすことのできない考え方、ストーリーテリングの手法や実践事例を紹介します。
この記事でわかること
読み手や聞き手をコンテンツに惹き込む~ストーリーテリング手法
最近のコンテンツマーケティングのトレンドでは、数字や事実をもとに記事・コンテンツを作成、雑誌や新聞のジャーナリストのような書き方で「信頼感」を持たせることが重要な一方、読み手や聞き手を最後まで惹き込むような「ストーリーテリング」の手法に注目が集まっています。
製品・サービスのメリットや特徴の羅列ではない、ストーリーテリングの手法に沿って作成されたコンテンツによって、対象とする読み手・ユーザー(ターゲットオーディエンス)をコンテンツに惹き込み、ページ滞在時間を長くすることで、結果的に目的とする購買や問い合わせといったアクションへのコンバージョン(CVR)を高めたり、製品・サービスのブランドイメージ向上などの効果を期待できます。
映画や小説の手法から学ぶストーリーテリング~物語の作り方
ストーリーテリングという手法は新しい手法ではなく比較的古くから使われている「物語の作り方」です。具体的には下記のような古典的な物語のフォーマット・流れを指し、コンテンツマーケティングにおけるストーリーテリングとは「物語を語るようにコンテンツを作成する」という定義。
古典的な手法であるものの、近年のヒットしている数々の映画作品(例えばディズニー映画など)も下記のような流れでストーリーを展開する場合が多く、日本の昔話などでも用いられている手法です。
2. Every day, ___. (毎日~をしていました)
3. One day ___. (ある日のことです)
4. Because of that, ___. (だから、~するようになったのです)
5. Because of that, ___. (だから、~になったのです)
6. Until finally ___. (そして、ついに~)
主人公が何らかの課題や問題に直面、それを克服することで成長し、最終的にはハッピーエンドとなるのがストーリーテリングの特徴です。
童話・シンデレラにおけるストーリーテリングの事例
日本の昔話や童話を始め、映画や小説などの名作と呼ばれるような作品には、ストーリーテリングの手法を活用している事例が多数あります。例えば、童話・シンデレラでも、ストーリーテリングの手法にしたがって物語が展開していることが分かります。
1. 昔々あるところに、シンデレラという女の子がいました
2. 毎日意地悪な継母やその娘たちに、まるで召使いかのような扱いを受けていました
3. ある日のことです、妖精がシンデレラを助け、お城の舞踏会へ参加できることになりました
4. だから、王子様と出会えて、そこで恋に落ちたのです
5. だから、深夜12時の魔法が解ける前にシンデレラがお城を去った後も、王子様は必死に探し続けたのです
6. そして、ついに王子様はシンデレラを見つけ、2人は結婚することになったのです
スティーブ・ジョブス氏のプレゼンテーションにおけるストーリーテリング
一方、ストーリーテリングの手法は童話や映画、小説に限らず、WEBサイトのコンテンツやブログ記事、ビジネスにおけるプレゼンテーションなどでも活用可能な手法。ビジネスにおけるプレゼンテーションにストーリーテリングを持ち込んだ代表的な事例が、アップル創業者の1人・ステーブ・ジョブス氏のスピーチです。
2005年6月、アメリカのスタンフォード大学卒業式で行われた「ハングリーであれ。愚か者であれ」と題するジョブス氏の有名なスピーチは、ストーリーテリングの手法に沿った内容でした。
1. 昔々あるところに、幼い頃に養子に出された私(ジョブス氏)がいました
2. 大学まで行かせてもらったものの、毎日人生で何をしたいのか分からず、大学に通う意味を見出だせずにいました
3. ある日のことです、大学を中退し、家のガレージでアップルを創業しました。自分が好きだと思える、打ち込めることに出会えたのです。
4. だから、30歳の時に経営方針の違いでアップルから追放された後も、NeXTという会社やアニメーション映画会社・ピクサーを立ち上げられたのです
5. その時の経験・挫折や、自分の仕事が心の底から素晴らしい仕事だと思えたからこそ、アップルに戻った後も創造的な仕事ができたのです
6. そして、ついにアップルは時価総額が1兆ドル以上の世界的有名企業となったのです。ぜひ自分が打ち込める仕事を探し続けてください。立ち止まっていてはいけません。
ジョブス氏がアップルの創業から現在までの出来事を時系列で話しただけでは、これほど有名なスピーチにならなかったと思います。このスピーチが有名になったのは、プレゼン内容にストーリー性を持たせたからだと考えられます。
ストーリーテリングには聞き手・読み手が共感する「ヒーロー」が必要
ストーリーテリングに必要なのが主役。そして、この主役は困難に立ち向かい、課題を克服する「ヒーロー」です。マーケティング目的のコンテンツでは、ストーリーの「ヒーロー」は以下のいずれかとなる場合が多いようです。
- 製品・サービスを利用する顧客の1人(ペルソナに最も近い人物)
- 製品・サービス自体(もしくはそれを擬人化)
- 製品・サービスの開発者や、その企業の社長など
ストーリーテリングの手法で最も重要なのが主役である「ヒーロー」の選択。同じストーリーでも、顧客を語り手とするのか、製品・サービスを提供している会社の社長を語り手とするのかで、コンテンツの印象も文章の内容もまったく違ったものになります。
なぜビジネスやコンテンツマーケティングにストーリー性が重要なのか
良質なストーリーテリングでは、読み手や聞き手がヒーロー(あるいは製品・サービスのユーザー)に自己投影し、ストーリーに共感したり、疑似体験ができるものです。
単に事実や数字を伝えるのではなく、ストーリー性を持たせることが効果的
ビジネスでのプレゼンテーションや、WEBサイトの記事作成・コンテンツマーケティングでも、同様にストーリーテリングの手法を活用できます。単なる事実や数字の羅列では記憶や印象に残りづらいものです。プレゼンや記事・コンテンツの内容にストーリー性を持たせることで、伝えたいことが伝わりやすくなるのです。
例えば、製品・サービスの機能や特徴を説明するだけの記事内容であれば、そこに主役(消費者やユーザー)は存在せず、共感が得られにくいもの。そこにストーリーテリングの手法を持ち込み、ヒーローを登場させ、課題・困難を解決するストーリーにすることで、共感を感じながら読み手はコンテンツに接し、結果として製品・サービスについて理解を深め、製品・サービスを好きになるというのがストーリーテリングの手法による効果です。
ストーリーテリングの方法~効果的な記事の書き方・ポイント
では、読み手から強い共感を得られるような良質なストーリーテリングとは具体的にどのようなコンテンツでしょうか?コンテンツマーケティングにおいてストーリーテリングを効果的に活用するための、具体的な記事の書き方のコツやポイントを紹介します。
ストーリーに興味が湧く・共感できる状態にもっていく
例えばストーリーテリングの主役に対して「この困っている人、自分に似てる」という親近感や、「そういう問題、私にもある」というような自己投影や“あるある感”があるコンテンツであれば、読み手の興味・関心が湧き、共感できる状態にもっていくことができます。
一方、読み手の興味・関心とは違う内容だったり、ストーリー内容に自己投影できなければ、共感は得られずに読み手は離れていきます。つまり、大前提として良いストーリーテリングやコンテンツマーケティングには、深いユーザー理解が必要です。
読み手であるユーザーを深く理解できているほど、多数が共感できるテーマのストーリーを書くことができ、読み手から共感を得られるほどブランドやサービスへの信頼が高まり、購買意欲なども増加します。
ストーリーテリングのテーマが思いついたら、下記のような観点でさらに自問自答してみることがポイントです。
- 本当に自分たちの顧客・ユーザーにとって興味・関心のあるテーマ・情報か
- いま顧客・ユーザーが知りたいと思う内容か(来年でも良い内容なのか、いま知りたいのか)
- 何か追加できる要素は無いか?他にも顧客・ユーザーが知りたいことは無いか?
今までに無い、斬新な情報を盛り込むと記憶・印象に残りやすい
コンテンツマーケティングにストーリーテリングの手法を取り込むとは言え、作成するストーリーが他のサイトにもあるような、ありきたりな書き方であれば効果的なマーケティングとはなりにくいもの。他には無い独自の情報や観点を内容に盛り込むことで、コンテンツのオリジナリティが高まります。
新しい情報がなぜストーリーテリングに必要かと言うと、脳は新しいものを覚えようとするからです。人間の脳神経は新しい情報に出会った時に活性化することが知られています。脳を活性化し、記憶や印象に残すためには、「覚えておいたほうが良い」と脳を刺激するような情報をストーリーテリングの中に盛り込むことが効果的です。
コンテンツを通して疑似体験できるような詳細な描写・書き方
ユーザーをコンテンツに惹き込むには、ストーリーを通して製品やサービスなどを疑似体験できるほどの詳細な描写や書き方もポイントとなります。例えば、ブランドストーリーでも読み手が「あたかも自分がそのブランドを立ち上げたかのような感覚」を感じたり、製品・サービスの利用手順を説明するコンテンツでも読み手が実際に利用しているような疑似体験ができるような文章や物語が必要です。
天気や色、温度、手触りなど、あたかもその世界(コンテンツ)の中に自分がいるような疑似体験を提供することが良いストーリーテリングのポイントです。
コンテンツマーケティングでの活用事例(アメリカ企業2社の例)
ストーリーテリングの手法をコンテンツマーケティングに取り入れる具体的な方法・事例として、次のような点があります。
・ホームページの企業概要やブランドストーリーコンテンツを、ストーリーテリングの手法で作成する
(いつ、どのようなきっかけで会社・事業が生まれたのか?)
・商品やサービスの概要をストーリーテリングの手法で作成する
(その商品・サービスは、誰のどんな課題を解決するのか?)
以下、コンテンツマーケティングにストーリーテリングの手法を活用しているアメリカ企業の事例を紹介します。
起業ストーリーをWEBサイトで語る~TOMS(靴の製造・販売企業)
アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスに本社を置く靴の製造メーカーである「TOMS」は、ユニークなチャリティプログラムを実施することでも有名な企業。TOMSは顧客が1足の靴を買う度に、靴を満足に買うことのできない開発途上国の子供たちに1足の靴を寄付、これまでに6,000万足以上の靴を届けています。
創業者であるブレイク・マイコスキー氏は、アルゼンチンを諒した際にたくさんの靴を持つことができない子供たちに出会い、この子供たちに靴を届けるためにTOMSを起業したそうです。
TOMSホームページの企業概要ページには、ありきたりな会社情報ではなく、TOMSの起業ストーリーや靴の製造に込める想いなどがストーリーテリングで書かれています。このブランドストーリーが多くの人に受け入れられ、今では靴以外にもサングラスやかばんなども製造・販売する大企業となっています。
消費者を惹き込むプレゼン~Joy(モップなど家庭用製品の販売会社)
アメリカで「ミラクルモップ」などの超ヒット商品の企画・開発で知られるジョイ・マンガーノ氏。そのサクセスストーリーは2015年にジェニファー・ローレンス主演の映画「Joy」として公開されるほどで、今ではモップ以外にもさまざまな家庭用製品を販売する会社を運営しています。
成功のきっかけは1992年、マンガーノ氏は自ら考案・開発したミラクルモップをテレビ通販番組で取り上げてもらうように売り込みました。売り込みは成功し、通販番組で取り扱われるようになったものの当初は売上が伸びませんでした。そこでマンガーノ氏は自分を番組に出演させるように依頼、自らカメラの前の立ち、製品のストーリー、開発までの過程や想いなどを語ったところ、商品が飛ぶように売れるようになったとのこと。
※日本で言うとテレビショッピングの「ジャパネットたかた」は、まさにストーリーテリングの手法によって売上を伸ばしている良い事例だと思います!
以上、コンテンツマーケティングにおけるストーリーテリングの役割や具体的な手法などを、世界最大級のコンテンツマーケティングカンファレンス「Content Marketing World 2018」で紹介された内容を中心に解説しました。